西遊記 3
2022-04-12


三 如意金箍棒(にょいきんこぼう)

 悟空は、混世魔王(こんせいまおう)を退治して、ひとふりの大刀(だいとう)を手にいれたので、それでもって毎日武芸をねり、小ザルどもにも、木や竹でつくった、槍刀(やりかたな)をもたせて、毎日のように教練(きょうれん)させていたが、ある日しずかに考えるのに、
――こんないくさのまねごとをしているだけでは、もしも人間の王さまや、鳥(とり)けものの王らが、軍勢をもよおして攻めてきたら、みんなの竹槍(たけやり)や木刀(ぼくとう)では、ひとたまりもあるまい。これはどうしても鋭利な武器をそなえて、軍備の充実をはからねばならぬ。――
 するとちょうどそこへ、つねづね相談相手にしていた四ひきの老(おい)ザルが、まろび出ていった。
「この花果山(かかざん)の東方、二百里のところに、傲来国(ごうらいこく)の王城(おうじょう)がございまして、軍兵(ぐんぺい)もあまたいることですから、かならず兵器をつくる職人もおりましょう。大王さまがそこへおいでになり、いるだけの兵器を、買うなり造らせるなりなすって、われわれにそれらを持たせ、この山城(さんじょう)の守護にあたらせられたら、それこそ、なによりの国のまもりとなるではございませんか。」
「なるほど」と、悟空はさっそく、そうすることにきめて、いった。「おまえたちは、ここで待っていてくれ、わしはいってくるから。」
 悟空が〓斗雲をおこして、またたくまに、二百里の海上をひととびすると、はたしてにぎやかな城市(じょうし)がみえてきた。心のうちで、
――ここでは兵器もたくさんあって、いくらでも買えるだろうが、むしろ神通力(じんつうりき)をもちいて、手に入れてくれよう。――
と、おうちゃくな考えをおこして、さっそく秘法をおこない、咒文(じゅもん)をとなえて、ぷうっとひと息ふくと、たちまち一陣(いちじん)の大風がふきおこり、砂をとばし石をふらせた。
 城中では、宮廷をはじめ、八百八町(はっぴゃくやちょう)の家々(いえいえ)では、このふいの狂風に、
「ウワァ! たいへんな風だ!」と、あわてて戸をたててしまったので、たちまち往来は、人かげひとつなくなってしまった。悟空はしずかに雲間(くもま)よりおり、兵器庫をもとめて、おし入ってみると、あるわあるわ、――刀、槍、剣(つるぎ)、矛(ほこ)から、斧、まさかり、弓、いしゆみと、あらゆる兵器がそなわっている。かれはほくそえんで、
――おれひとりでは、いくらも運べるものではない。やはり「身外身(しんがいしん)の法」をもって運んでやろう。――
と、れいによってひとつかみの毛をぬき、咒文をとなえて「変れ!」とさけぶと、それが数百ぴきの小ザルとなり、われがちにとはこびだしたので、さすがの兵器庫も、すっかり空(から)になってしまった。それからまた雲をふみ、狂風をつのらせて、小ザルもろとも、どっとばかりに花果山へ引きあげていった。
 悟空が雲間よりおり、身をひとゆりゆすって、毛をおさめてしまうと、そこには兵器が山とつまれていた。
「家来ども、みんなきて武器をとれ!」
 悟空がこうよばわると、無数のサルどもがはしりよって、めずらしげにわれがちにと、刀や剣をうばい、槍や斧をあらそい、弓やいしゆみをいじりまわしなどして、キャッキャッとさわいで、その日一日は暮れた。

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